副鼻腔炎

副鼻腔炎(蓄膿症、ちくのう)とは

鼻の穴から吸い込まれた空気は“鼻腔”へと入り、加湿され、咽頭(のど)を通って気管へと入っていきます。この鼻腔は、「鼻中隔(びちゅうかく)」と呼ばれる骨によって仕切られていて、右の鼻の穴から入った空気は右側の鼻腔に、左側の鼻の穴から入った空気は左側の鼻腔に入る仕組みとなっています。

鼻腔には「鼻甲介」と呼ばれる突起があり、加湿に役立っています。その周りにあるのが「副鼻腔」と呼ばれる空洞です。ちなみに、副鼻腔は骨の量を減らして頭蓋骨を軽くするために発達したと考えられていますが、その機能はわかっていません。左右どちらの副鼻腔も仕切りによって4つの副鼻腔に分けられていて、それぞれ上から「前頭(ぜんとう)洞(どう)」「篩(し)骨(こつ)洞(どう)」「蝶形(ちょうけい)洞(どう)」「上顎(じょうがく)洞(どう)」と、名前が付けられています。

 これらの空洞に炎症が起こることを「副鼻腔炎」といい、正確には症状の経過が短いものを「急性副鼻腔炎」、3か月以上症状が続くもの1,2を「慢性副鼻腔炎」といいます。このうち、慢性副鼻腔炎が一般に「副鼻腔炎」「蓄膿症」「ちくのう」と呼ばれています。

副鼻腔炎(蓄膿症)の主な原因は?

少し前までは副鼻腔炎とは、細菌やウイルスによる副鼻腔の感染症と考えられていました。

真菌(カビ)による副鼻腔炎など感染によるものもありますが、大半の副鼻腔炎は、現在では喘息のように細菌によって誘発される免疫の反応を中心に、様々な生体の反応で起こる病気と考えられています3。

また、一部の副鼻腔炎には遺伝が関係していて、代表的なものとして、塩素イオンの輸送(CFTR)やヒト白血病抗原(HLA)の遺伝子が副鼻腔炎に関係しています4。

副鼻腔炎(症状)の症状について

⑴ 鼻漏、後鼻漏

鼻漏、後鼻漏黄色い、膿の混じったような粘り気のある鼻水が代表的な症状です。鼻からだけでなく、のどに向かっても多く流れるのが特徴です。

⑵ 鼻閉(鼻づまり)

おそそ9割の方が、鼻の通りの悪さ(鼻づまり、鼻閉(びへい))を自覚します。炎症による鼻の粘膜の腫脹の他、鼻ポリープ(鼻茸、はなたけ)が原因となります。

[コラム] ~鼻ポリープとは~

ヒトの体は細菌やウイルスといった外敵から体を守る仕組みをいくつも持っています。寄生虫が体に入ってくると、Th2細胞というリンパ球(白血球の一種)が炎症を起こして、追い出そうします。

これを2型炎症反応といいますが、うまく調節ができないとアレルギー反応の原因になってしまいます。鼻ポリープはこの2型炎症反応によって副鼻腔の粘膜がポリープのように腫脹してできると考えられています(詳しい仕組みはわかっていません)。

逆にこの2型炎症反応がない方にはポリープができにくいので、ポリープの有無は副鼻腔炎の原因となっている炎症反応を推測して適切な治療を行うために、重要なポイントとなっています。

また、ポリープの重症度は以下のようになっています。

鼻茸内視鏡スコア 所見
鼻茸なし
中鼻甲介下端まで(中鼻道)に限局する鼻茸
中鼻甲介下端を超える鼻茸:下鼻甲介下端には到達せず
下鼻甲介下端に達する鼻茸または嗅裂部の鼻茸
鼻腔を閉塞/ほぼ閉塞する鼻茸

⑶ 顔面の違和感、痛み

顔面の違和感、痛みおよそ8割の方が、顔面に圧力がかかるような違和感や痛みを感じます。

⑷ 匂いが弱い、なくなる(嗅覚障害)

およそ7割程度の方が、匂いが弱くなったり無くなったりする「嗅覚障害」を自覚します。
その他にもよくある症状として、倦怠感、頭痛、寝苦しさ(睡眠障害)、歯痛、耳の痛みを3~9割の方が感じます。過去の研究では生活の質(QOL)8や、日々の生活の効率(仕事の生産性)9を低下させたりすることがわかっています。

副鼻腔炎(蓄膿症)の治し方について

副鼻腔炎(蓄膿症)の治し方について副鼻腔炎の治し方は、これまでの研究をもとに国内、海外の専門家が相談して決めた“治し方”、いわゆる診療ガイドラインや診療の手引きと呼ばれる治療のマニュアルが公開されています。

鼻副鼻腔炎と鼻ポリープに関するマニュアルの代表的なものとして、国内では⑴日本鼻科学会「副鼻腔炎診療の手引き」、海外では⑵ヨーロッパ診療意見書、⑶英国臨床免疫アレルギー学会ガイドライン、⑷カナダ耳鼻咽喉科学会ガイドライン、⑸アメリカ感染症学会ガイドラインなどがあります。

お薬それぞれに定められている「効能・効果」もとに、これらのガイドラインを参考にして症状と状態に最適な治療を行います。

また、これらのマニュアルの多くでは、同じ副鼻腔炎でも原因が異なる鼻ポリープができる副鼻腔炎と鼻ポリープのない副鼻腔炎とを分けて、それぞれに治し方が勧められています。

⑴ お薬による治療

副鼻腔炎の治療はポリープがあるかないか、鼻づまりがあるかないか、膿性の鼻水が増えていないかどうかなど、症状に合わせて治療を組み合わせます。

① 点鼻薬
(ステロイド点鼻薬)

ステロイド剤にはアレルギー反応や炎症を抑える効果、水分を調節する効果などいろいろな効果を持つお薬です。
よく効くお薬ですが、いろいろな作用がある分お使い頂く場合には副作用のことも考えなくてはいけない薬剤です。点鼻用のステロイド剤は鼻にしっかり効果がある一方、最近の点鼻薬はほとんど鼻以外には作用せず、体内で作用する割合はごくわずかで1%以下と言われています。そのため、体への副作用をあまり心配せず使えるようになっています。
鼻ポリープのある無しにかかわらず、すべての副鼻腔炎に効果があります。

② 抗ロイコトリエン薬

ロイコトリエンとは、体の中でアレルギーや炎症反応を起こし続けるためのシグナルとなる、ホルモンのような働きをするもの(脂質、エイコサノイド)です。気管支喘息の原因にもなっています。抗ロイコトリエン薬は、体の中でロイコトリエンからのシグナルを受け取っている場所に先回りして、ロイコトリエンのシグナルを体が受け取らないようにすることで、ロイコトリエンがアレルギーや炎症反応を起こし続けないようにする働きがあり、炎症を抑える効果を示します。
抗ロイコトリエン薬は、鼻ポリープを伴う副鼻腔炎に勧められています。

③ 抗生物質
(抗菌薬:細菌を抑えるお薬)

副鼻腔炎の初期や膿性の鼻漏がひどくなった時には、殺菌作用のある抗生物質を使用します。
海外では副鼻腔炎の状態別に抗生物質の種類が細かく示されているものもありますが、主要なマニュアルを作成している欧米の国々とは副鼻腔炎の原因となる細菌が異なりますので、年齢や状態、細菌検査の結果によって、症状に最適と思われるお薬を処方します。

④ マクロライド系抗生物質

抗生物質にはペニシリン系、セフェム系といった、様々な種類があります。マクロライド系と呼ばれる抗生物質は、細菌を抑える抗生物質としての働きもあるのですが、それ以外にも炎症を調整したり、水分を調節したり、抵抗力をつけるために細菌が作り出す物質を抑えたりするなど他の抗生物質にはない作用があり、少しずつ長期間内服する(長期少量持続療法といいます)ことで、肺や副鼻腔の慢性の炎症に効果があることがわかっています。
マクロライド系抗生物質による治療は、鼻ポリープのない副鼻腔炎に、特に勧められています。

⑤ ステロイド剤の内服

ステロイドとは人工的に作られた副腎皮質ホルモンの一種です。炎症を抑えたり免疫を調節したりする作用が強く、副鼻腔炎にも効果的なお薬です。
一方で、血圧や血糖値を上昇させる、眠りにくくする、水分調節に影響する、体で副腎皮質からつくられるホルモンの量を減らす、といった副作用もあります。とても効果的なお薬ですが、長い間続けて内服する場合には、投与量や副作用に注意が必要なお薬です。
ステロイド剤の内服による治療は、鼻ポリープのある副鼻腔炎に特に勧められています。

⑥ 痰切りのお薬(去痰薬)

副鼻腔には「繊毛機能」と呼ばれる機能で副鼻腔の内部に貯まった鼻水やごみを、出口(自然孔)の方向に送り出して排出する機能があります。
副鼻腔炎では粘り気の強い鼻水が鼻の奥に貯留することで、この機能がうまく働かなくなり、結果として膿やその他のごみが副鼻腔の内部に貯まって、粘膜の状態を悪化させてしまいます。
カルボシステインは痰の粘りをとり排出を助けるお薬で、痰を排出させることで副鼻腔内の粘膜の状態を改善します。

⑦ 鼻洗浄(生理食塩水による
副鼻腔洗浄)

副鼻腔炎では鼻水やごみが副鼻腔の内部に貯まって、粘膜の状態を悪化させてしまいます。鼻の内部の粘度の高い鼻水やごみを取り除くことで、副鼻腔内部の粘膜の状態を改善します。
どのような副鼻腔炎にも効果がありますが、特に鼻ポリープがない場合に効果があります。

⑧ [参考]デュピルマブ
(商品名:デュピクセント®)

鼻ポリープのある副鼻腔炎は2型炎症反応が中心となっていますが、一部に2型炎症反応を抑えるステロイド剤を使ったり、手術をしたりしても治りにくい難治性の副鼻腔炎をお持ちの方がお見えになります。このような時に2型炎症反応の原因となるインターロイキン-4や-5、-13によるシグナルを、直接抑えるお薬があります。日本では、インターロイキン-4と-13の両方を抑えるお薬であるデュピルマブが2020年3月から、全身性ステロイド薬、手術等ではコントロールが不十分な場合に限ってですが、利用可能となりました。
デュピルマブの治療は、初めは2週間ごとに、症状が安定した場合には4週間ごとに皮下への注射によって投与します。

耳鼻咽喉科専門医がおすすめする
自宅でできる副鼻腔炎(蓄膿症)の対策

鼻洗浄

自宅でできる副鼻腔炎の治療として、鼻洗浄があります。

鼻洗浄は、生理食塩水などによって鼻の中を洗浄して、貯留した粘液や膿を洗い流す治療です。ドラッグストアやアマゾン、楽天、家電量販店などで購入できる鼻洗浄用の押し出し式のポンプを使って、鼻の中に生理食塩水を注入して洗浄を行います。

生理食塩水は、専用の市販の洗浄液を使うと簡単にできますが、食卓で使う食塩を水道水に溶かして作ることもできます。その場合は、小さじ1杯のしっとりとした食塩(5g)の場合は550mlの、さらさらとした食塩(6g)の場合には650mlのお湯にしっかりと溶かして38℃前後にさましてから使うこともできます。

雑菌やカビが入り込むと、かえってこじらせる原因になる可能性もありますので、食塩や計量器の管理には注意が必要です。

また、充分な量の生理食塩水で洗うことが大切で、1回100ml以上3の生理食塩水で洗浄すると効果的とされています。
最後に、鼻洗浄はお薬と組み合わせて使用することが勧められています。副鼻腔炎はこじらせないのが大切です。

特に10日以上続いたり、症状が強かったり、急速に悪化する副鼻腔炎の症状を感じたら10、早めに専門医に相談しましょう。

 

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