耳管開放症

耳管開放症とは

耳管開放症「耳管」は耳(中耳)とのど(上咽頭)をつなぐ全長3cmほどの細い管です。

耳(中耳)にはふだん空気が入っていて、鼓膜から音を聴く神経、「内耳」へと中耳の中を通って音が伝わるのを助けています。この中耳の空気は時間の経過とともに少しづつ消費されていきますので、補充する必要があるのですが、この補充される空気は耳管を通てのどから必要なだけ補充される仕組みとなっています。

耳管は、粘膜でできた細い管ですが、この管のおよそ半周を軟骨が取り囲んでおり、後方から耳管を緩やかに押さえています。たいていの場合、この「形」のために「耳管」はふさがっていて、「耳」と「のど」の間には空気の出入りはありません。「のど」から「耳」に空気が流れ込むのは、飲み込んだりあくびをしたりした時に耳管の軟骨と上あごをつなぐ筋肉が、耳管の軟骨を後ろに引くことで管を開いたときだけです。エレベーターに乗ったり、飛行機に乗ったりしたときに耳に違和感がでることがありますが、この違和感が飲み込んだり、あくびをしたりするとなおるのは、そのためです。

このように普段はふさがっている耳管ですが、何らかの原因で、飲み込んだり、あくびをしたりしなくとも開いたままになってしまったり、とても開きやすくなったりすることがあります。そうすると、開いたままの耳管を介して、「のど」と「耳」がつながったままの状態となってしまいます。

普段は、耳に直接伝わることがないのどから出る声や、息を吸ったり吐いたりしたときの空気の流れが、開いたままの「耳管」を通して「耳(中耳)」に刺激として伝わります。

「耳(中耳)」に伝わるこれらの刺激が不快に感じられる場合に、「耳管」が「開放」することで生じる「症」状、すなわち「耳管開放症」といいます。

耳管開放症の原因は?

妊娠体重の減少や妊娠が耳管開放症の原因の例としてよく挙げられます。

しかし、ふだん耳管を「閉じ」ておくための仕組みは一つではなく、耳管周囲の脂肪や血管(静脈叢)といったいくつかの「しくみ」が関わって耳管が閉鎖していることが予想されていますが、耳管開放症の診断がかなりの確度で行えるようになった現在でも耳管開放症に悩む一人ひとりの方が、それぞれどのしくみに異常があって耳管が開放しているのかは、ほとんど診断することができません。

血管に異常があれば血流に影響する病気を、脂肪に原因があれば代謝に影響する病気がその原因と推定できますが、そうしたことは難しく耳管開放症の原因を診断することは簡単ではないのです。

こうした背景があり耳管開放症の原因についての調査は多くはありませんが、国内の大学病院を受診した40人ほどを対象とした調査では、原因不明が半数強と最も多く、次いで2割が体重減少、5%が妊娠が原因と診断されたという結果が報告されています。 (当院における耳管開放症例の検討 Otology Japan 2011)

耳管開放症の症状は?

「自声強聴」「呼吸音聴取」「耳閉感」が3大症状

耳管開放症では開放した耳管を介して、ふだんは「のど」から「耳(中耳)」に伝わらないような刺激が伝わることで症状が生じます。

伝わる刺激の一つはのどから発生する「音」です。
耳管開放症では、「のど」から伝わる「声」が耳にすぐに伝わることで、割れた自分の声が響く「自声強聴」、ゴーゴーと息を吸ったり吐いたりする音が聞こえる「呼吸音聴取」が生じます。さらに、エレベーターや飛行機で高さが急に変わった時、耳に水がはいったような、耳が詰まったような感覚「耳閉感」が起こります。

自声強聴と呼吸音聴取は8~9割ほど、呼吸音聴取は7割ほどの方が経験する代表的な症状と考えられています。(小林俊光 耳管閉鎖障害の臨床、2005)その他にも2割ほどの方が難聴、稀にめまい、鼻閉、鼻声、肩こりが生じます。(小林俊光 耳管閉鎖障害の臨床、2005)

耳管開放症の診断は?

学会の提案:診断基準案があります

耳管開放症の診断には、日本耳鼻咽喉科学会に所属する耳の病気についての学会、日本耳科学会の診断基準案が用いられます。現在公開されている2016年版 では、

⑴ 耳管開放症でよくおこる自覚症状があるか?
⑵ 耳管を閉塞させると症状がなくなるか?
⑶ 検査で耳管開放症が確認されるか?

の3つを確認して、全てが当てはまる場合に「確実な耳管開放症」、⑴は当てはまるが、⑵または⑶のいずれかが当てはまらない場合には「耳管開放症の疑い例」と診断します。

まず、⑴ の自覚症状では、耳管開放症をお持ちの方の6~9割が感じる症状、自声強聴、耳閉感、呼吸音聴取の少なくともいずれか一つを自覚しておられるかどうかを確認します。

⑵ 耳管開放症は耳管がふだん開くこと生じる症状が生じますので、耳管を閉塞させればその症状が消失します。一時的な閉塞の方法として、A. 横になったり、前かがみになって頭を膝の下まで下げる(臥位・前屈への体位変化)方法、B.「のど(上咽頭)」にある耳管の入り口に(耳管咽頭口)に綿棒を差し込んだり、医療用のジェルを流しこんだりして閉塞する方法(耳管咽頭口閉塞処置)のいずれかで症状がなくなることを確認します。

⑶ ⑴⑵はご自身のみが感じることができる自覚症状についての確認でしたが、⑶では客観的な症状を確認します。A.耳管が開放すると、のどの気圧が開放した耳管を通して耳(中耳)へと伝わり、息を吸ったときには気圧が低く(陰圧に)、吐いたときには気圧が高く(陽圧に)なります。中耳の気圧が低くなると鼓膜が凹み、気圧が高くなると鼓膜が膨らみますので、手術用顕微鏡や内視鏡を使って鼓膜が呼吸にあわせて振動するかどうかを観察します(鼓膜の呼吸性動揺)。

B. Aで確認した鼓膜の動揺を耳管機能検査装置のTTAGモードという方法でより客観的に確認する方法です。のどの気圧を気圧センサーで、鼓膜の動きを鼓膜で反射する音の量で測定して記録することができますので、のどの気圧の変化と鼓膜の動揺の程度を記録を見て確認することができます(鼻咽頭圧に同期した外耳道圧変動)。

C. 音響法は鼻にスピーカーを、耳にマイクを挿入して、鼻から入った音が耳の穴にどのくらい伝わるのかを計測する方法です。鼻(鼻腔)に入った音はのど(上咽頭)を通り、耳管を通して耳(中耳)に到達し、鼓膜を通って耳の穴(外耳道)へと到達します。この音の通り道で最も狭いのが耳管で、耳管の広さ(断面積)と通り抜ける音の量は比例することがわかっています。
そのため、多くの音が通り抜ける場合には耳管が大きく開いていると考えられます(提示音圧100dB未満)。(Kawase T, Kano S, Otsuka T, Hamanishi S, Koike T, Kobayashi T, Wada H Autophony in patients with patulous eustachian tube: experimental investigation using an artificial middle ear 
Otol Neurotol . 2006 Aug;27(5):600-3.)

また、ふつうは飲み込んだり、あくびをしたときだけ耳管が開放しますので、音響法ではその時だけ、耳管の断面積が大きくなるのに比例して耳に伝わる音が大きくなります。耳管開放症では耳管が開いたままとなりますので、音の伝わりが大きなままとなります(開放プラトー型)。

この診断基準はだれでも簡単に耳管開放症を診断できるようにすることを目的に作られたものです。(菊地俊晶 最新の耳管機能検査と結果解釈のコツ 特集 耳管診療の手引き−基本から最新治療まで 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 Vol.91 No.8 2019年 07月号)

基準を満たした場合にはほぼ確実に耳管開放症と診断できますが,基準を満たさない場合に、耳管開放症や耳管閉鎖不全による症状であることを否定するものではないことに、注意する必要があります。

また、耳管開放症の診断には、診断基準の確認に必要な耳管機能検査装置による検査の他に、耳管開放症に似た症状を呈する病気を区別するための検査も行います。

例として、聴力検査で感音難聴を、ティンパノメトリで滲出性中耳炎を、鼻咽腔内視鏡検査で「のど」のできものや形の異常を確認する他、座ったまま、症状がある状態で撮影できるCT検査装置(コーンビームCT装置といいいます)によって、開放した耳管を確認することも役に立ちます。(Kikuchi T, Oshima T, Ogura M, Hori Y, Kawase T, Kobayashi T.  Three-dimensional computed tomography imaging in the sitting position for the diagnosis of patulous eustachian tube  Otol Neurotol. 2007 Feb;28(2):199-203.
耳管画像検査の基本と読影のコツ 稲垣 彰 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 Vol.91 No.8 2019年 07月号)

耳管周囲の状態を確認したり、脳に異常がないことを確認するためにMRIを撮影することもありますが、通常の撮影法でははっきりした画像が確認できず、特別に撮影する角度や撮影の細かさを設定して、耳管周囲を詳細に撮影する必要があります。

耳管開放症の治療

耳管開放症の治療

耳管開放症の治療には、お薬による治療、処置による治療、そして手術による治療が行われています。
症状、重症度、病気に悩む期間などを考慮して、治療を決めていきます。代表的な方法として、次のようなものがあります。

お薬による治療

漢方薬による治療を行います。最もよく用いられるのが加味帰脾湯、補中益気湯ですが、それ以外の漢方薬が用いられることもあります。ATP製剤を用いることもあります。
(耳管開放症におけるアデノシン三リン酸(ATP)の治療効果 松田雄大 ほか 耳鼻咽喉科臨床 105巻8号 Page721-727(2012.08) )

処置による治療

開放した耳管が閉塞するよう、薬を注入する方法です。

⑴ 生理食塩水点鼻療法 仰向きになったり、座りながら上を向いたりしながら生理食塩水を鼻に注入して、耳管を閉塞する方法です。

⑵ 耳管内噴霧療法 耳管通気カテーテルと呼ばれる管を用いて、開放した耳管の内部に注入します。注入する薬剤には様々な種類があり、ルゴール液、ルゴールジェル、Bezold粉末などが用いられます。

⑶ 手術治療 新しく健康保険で認可された方法で、「耳管ピン」と呼ばれるシリコン製のピンを、開放した耳管に鼓膜を通して挿入する方法があります。

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